東アジア言語研究・言語教育プログラム
招聘研究者

湯浅 千映子 / yuasa chieko

経歴
1995 年同志社女子大学 短期大学部 日本語日本文学科 卒業
1999 年学習院大学 文学部 日本語日本文学科 卒業
2001 年学習院大学大学院 人文科学研究科 日本語日本文学専攻 修士修了
2007 年学習院大学大学院 人文科学研究科 日本語日本文学専攻
博士課程単位取得 満期退学
2007 年韓国 大田大学校 国際語文化大学 日語日文学科 専任講師
2010年~韓国 忠南大学校 人文大学 日語日文学科 招聘教員

研究テーマ
読み手の年齢差に応じた表現の類型

本研究の目的

文章には、目的や用途によって様々なジャンルの文章が存在し、
それぞれに一定の類型が存在する。

その目的や用途は、対象とする読み手の年齢や職業、そして場面によって変わるものである。

本研究では、子どもに対して書かれた文章を「子ども向け」という一つのジャンルとして認定し、
その類型的な姿をとらえることを最終目的とする。


「子ども向け」の文章と一般向けの文章と比較すると、
同じ「大人」という立場にいる書き手は、
文章が対象とする読者層の年齢に応じて表現を使い分けている。

例えば、一般向けの新聞では、文末の「です・ます体」は排除されているが、
これが小学生新聞になると、文末に「です・ます体」を付している。


これは、「子ども向け」の文章が、一般の文章に比べ、読者対象の年齢層が限定され、
その読者の姿を想像することが容易であることによると思われる。

「子ども向け」の文章からは、その読者層の「子ども」にとって、
わかりやすく、親しみやすい配慮がなされているという印象を受ける。

これは、書き手の大人が「子ども」という読者層に対する意識を
文章表現の面に反映させた結果であることが想像できる。

しかし、何をもって、「子ども向け」の文章と呼ぶのか、
「わかりやすい」・「親しみやすい」という印象は
実際、どんな言語的要素によってもたらされたものであるかを
即、説明することはできない。

その実態を明らかにするのが、本研究の趣旨である。

子どもが書き手となって、作文などを書く際に自身で生み出す「子どもらしさ」ではなく、
大人が書き手となった場合に、大人自身が子どもに向けて生成した「対子どもらしさ」を
感じさせる要因について探る。

本研究の意義

子どもの書いた文章と大人の書いた文章を比較し、書き手自身の年齢のちがいによって、
その言語習得の過程を探る研究は、多くみられる。

また、言語獲得期の幼児が発することばを分析対象とした「幼児語」の研究もさかんである。

一方、子どもを対象としたとき、情報を発信する側である大人のことばの研究も見られる。

母親や父親が幼いわが子に語りかけることばを「育児語」、
または「ベビートーク」と称し、その特徴が分析されている。

しかし、声のトーンや抑揚、テンポなど、話しことばの音声的側面(正高1993)であったり、
語彙(友定2005による)のバリエーションがその論の中心となっている。

対象となる読み手の年齢差に着目し、対する書き手側の文章を分析対象として、
読み手が大人の場合と子どもの場合とで比較した研究はほとんど見られない。

そこで、本研究では、「大人」という立場の書き手が、
広く小学生も含めた「子ども」という存在を、自身とは異なる存在だと認識し、
「文章」という伝達手段でもって語りかけるとき、
どんな表現を用い、どんな文章展開をとるのか、
新聞・翻訳作品・携帯電話の取扱説明書を資料として、
実際の文章例を分析する中で、対象となる読み手の年齢差による差異を明らかにする。